メディアが出来事を間違って報道することを誤報という。2014年5月20日、朝日新聞は第一面トップで政府未公開の文書である東京電力福島第一原子力発電所の故・吉田昌郎所長が政府事故調査・検証委員会の聴取に応じた「聴取結果書」(吉田調書)の内容を報じ、11年3月15日に福島第一原発第2号機が制御不能となった際、所員の9割が吉田所長の待機命令に違反して撤退し、事故対応が不十分になった可能性があったとスクープした。しかしその後、政府の「吉田調書」公開によって、朝日新聞のスクープは誤報であったことが明らかになった。14年9月11日、朝日新聞は福島第一原発事故に関する「吉田調書」についての「命令違反で撤退」の記事を取り消し、謝罪するとともに、報道部門の最高責任者をはじめ関係者を処分し、木村伊量社長の社長報酬を全額返納することを発表、12月5日付で木村社長は引責辞任した。また、1982年9月2日付大阪本社朝刊で、済州島での200人の若い朝鮮人女性を慰安婦として強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言(吉田証言)をスクープ記事として報じ、以来、1980~90年代に16回にわたって、この証言をめぐるキャンペーン記事を掲載した。しかし、2014年8月5日、朝日新聞は済州島での慰安婦強制連行についての吉田証言は虚偽であったと判断し、関連記事を取り消すと発表した。吉田証言に関する報道によって、朝鮮人慰安婦強制連行は第二次世界大戦下における国家権力による恥ずべき犯罪として国際的に知られる「事実」となり、日本人の品性さえ疑われることになった。この報道が生み出した国際的反響に動かされて、1993年には「河野談話」が政府見解として示され、また日本の中学校歴史教科書に慰安婦という文言が採択された。さらに韓国やアメリカのいくつかの都市では「従軍慰安婦の碑」が建立された。誤報は人びとに出来事についての不正確なイメージを提供するため、取り返しのつかない歴史解釈を社会に広める危険性を持っている。