依頼された他人の名前で公表することを目的に、書籍、記事、脚本、絵画、彫刻、楽曲などの表現物を作品として完成させ、自分を匿名にし、代筆者としての役割を存在しない状態にする表現者。著名で多忙な一部の作家では、社会の需要に応じるために自分の作風を熟知した他人に、作品の一部あるいは全部を作らせることが、業界的には暗黙の了解ともなっている。2014年の音楽業界においては、広島生まれの被爆二世で全ろうの作曲者、佐村河内守が手掛けたとされ、11年の発売後に異例のCD売り上げを記録した『交響曲第一番HIROSHIMA』をはじめとする彼のさまざまな楽曲が、ゴーストライターによるものだったことが大きな注目を集めた。佐村河内守は07年には自伝『交響曲第一番』(講談社)を刊行、13年3月31日にはNHKスペシャル『魂の旋律~音を失った作曲家』が放映され、ソチオリンピック男子フィギュアに出場する高橋大輔選手が、ショートプログラムを佐村河内守作曲とされる『ヴァイオリンのためのソナチネ』で滑ることなどで話題を呼んだ。しかし、14年2月に当時、桐朋学園大学作曲専攻の非常勤講師だった新垣隆が18年にわたって佐村河内守のゴーストライターをしていたことなどを告白。全ろうと偽って世間を欺き、ゴーストライターによる作品を自分の苦悩の表現として公表してきた佐村河内守の虚偽の物語作りが明らかになった。NHKなどの番組制作ではその偽りが見抜けずに新しいスターの登場をもてはやし、また講談社による自伝の出版や日本コロムビアによるCD化など、この事件でマスコミが演じた役割は見逃せない。