気候変動がもたらす脅威が、国家の安全保障のみならず、食料・水・エネルギーなど、あらゆる人間の安全保障に関わることを示した言葉。気候変動がもたらす影響は、すでに人間の生命・健康や人間活動の基盤である生態系の脅威となっており、適切な対策を講じなければ、その脅威はさらに大きくなることが警告されている。イギリスのベケット外相(当時)が2006年秋に行った演説で、「気候安全保障なくして、国家安全保障や経済的な安全保障を確保することは困難である。温暖化によって気候が不安定になれば、政府の基本的責任である、経済・貿易・移民問題・貧困などへの対応は果たせなくなる」と、温暖化への対応をイギリス外交の主要課題に置くことを表明。気候変動の影響の深刻さを、「気候安全保障」という言葉で最初に明確に表現した。こうした動きを受けて、07年4月17日には、「エネルギー、安全保障および気候に関する安保理公開討論」として、国連安全保障理事会において、議長国イギリスの主導で史上初めて気候変動問題が取り上げられた。気候変動を安全保障の問題、すなわち「気候安全保障」としてとらえることにより期待される国際政治上の効果としては、各国の首脳が直接関与すべき重要度の高い政治上の課題として認識されることである。そのことによって、本来気候変動に与えられるべき高い優先順位が与えられ、その結果、国内対策や国際的な連携も促進されることが期待される。さらに、気候安全保障が優先順位の高い政策項目とされることにより、低炭素で発展する経済社会に必要な技術や制度、ライフスタイルを促進することにつながることも期待される。