例えば、国は居住者に対し、国外にある財産から生じる利子や配当などに所得税を課す権利を持っている。また、居住者が死亡した場合には、その者が死亡時に所有していた国外にある財産にも相続税を課す。ただし、国外にある財産を把握することは難しいことが多い。そこで、2012年度の税制改正で、新たに国外財産調書制度を創設した。具体的には、その年の12月31日において、その時価が5000万円を超える国外財産を有する居住者は、その財産の種類、数量、価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、翌年3月15日までに、税務署長に提出しなければならない。この場合、国外財産調書制度の実効性を担保するために、国外財産調書に記載した財産から生じる利子、配当、家賃収入、譲渡所得などに申告漏れがあったときにおいても、提出した国外財産調書にその元本となる財産の記載があるときは、申告漏れに対するペナルティーとしての過少申告加算税(10%、15%)または無申告加算税(15%、20%)については、通常課されるこれらの加算税額から、その申告漏れ等に係る所得税の5%に相当する金額を控除した金額とする。国外財産に係る相続税について申告漏れ等がある場合においても、被相続人により提出された相続の前年分の国外財産調書、または相続人により提出された相続の年分の国外財産調書のいずれかに、その申告漏れ等に係る国外財産の記載があるときは、所得税の場合と同様に、過少申告加算税または無申告加算税は、その申告漏れ等に係る相続税の5%に相当する金額を控除した金額とする。この場合、意図的な税逃れ目的で国外財産を隠した場合には、重加算税が課されるが、過少申告加算税または無申告加算税を課される場合の5%の軽減措置は適用されない。一方、国外財産調書を提出しなかった場合で、所得税について申告漏れ等があるとき、または提出された国外財産調書にその申告漏れ等に係る国外財産の記載がない(記載不備を含む)ときは、その提出または記載がない部分につき課される過少申告加算税または無申告加算税については、通常課されるこれらの加算税額に、その申告漏れ等に係る所得税の5%に相当する金額を加算した金額とする。一方、国内にある財産については所得金額が2000万円を超える人に対して財産債務明細書の提出を求めてきた。ただし、同明細書の内容について質問検査権を付与していなかった。15年度の税制改正では、「財産債務明細書制度」を廃止し、新たに「財産債務調書制度」を創設する。主な要件は、(1)これまでと同様に所得金額が2000万円を超えること、(2)その年の12月31日において有する財産が3億円以上であること、または同日において有する国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産の価額の合計額が1億円以上であること。記載事項は国外財産調書の記載事項と同様の事項となっている。過少申告加算税等の特例も国外財産調書の特例と同様とする。なお、国外財産調書に記載した国外財産については、財産債務調書への内容の記載は要しない。16年1月1日以後に提出すべき財産債務調書について適用する。