法人税法は、1947年と65年にそれぞれ全文が改正され、今日に至っている。しかし、収益を計上する時期や価格については、「当該事業年度の収益の額」と規定するだけで、明確にしていない。法人税が課税対象にする所得は、企業が経営成績を測定するために用いる会計基準上の利益に近い概念であり、その計算方法は会計の考え方に基づく。そこで、収益、売上原価、販売費・一般管理費、損失は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される」と規定してきた。しかし、法人税法は法人の財産を強制的に奪う法律であることから、すべてを会計に委ねることはできない。そこで、具体的な収益の計上時期や運用は、国税庁長官が国税局や税務署の職員に向けた行政上の指示である通達の定めによっていた。つまり、行政(通達)が主導する形で運用してきた。また、株式会社の場合は、会社法(旧商法)の規定に基づく株主総会で承認された決算利益に基づくことから、法人税法と会社法(旧商法)の規定との関係についても配慮する必要があった。その調整が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」。しかし近年、会計は時価表示を中心とする国際的な調和を求める方向に大きく変化している。法人税も国際的な税率引き下げの流れに乗るために、課税所得を拡大する方向にシフトしている。このように、長年築いてきた会計、会社法、法人税法のトライアングル体制が、それぞれの目的を重視した方向に歩み出している。
このようななかで、2014年5月には国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同で開発した収益認識に関する包括的な会計基準である「顧客との契約から生じる収益」の会計基準が18年から実施されることになった。日本の会計基準を設定する企業会計基準委員会(ASBJ)も「収益認識に関する会計基準(案)」を公表して、18年3月までに正式に基準化する方向で動いている。このような状況の変化のなかで、18年度の税制改正で、法人税において収益の認識基準を法令化する。
具体的には、これまで通達で定めていた基本的な取扱いを法人税法で規定する。例えば、原則として引き渡し基準によることとし、契約効力発生日の基準も認めることとする。収益計上額(益金の額に算入すべき金額)については、これまで解釈として定着しているその販売、譲渡をした資産の引き渡しの時における価額(時価)、その提供をした役務につき通常得るべき対価の額(時価)に相当する金額とすると規定している。なお、収益認識に関する会計基準(案)には、収益を認識するために、5つのステップに基づくことを規定している。法人税においてもこの会計基準(案)の考え方を取り入れる方向で解釈が行われるか否かが注目される。