生物多様性(biodiversity)は、生物学的多様性(biological diversity)を意味する造語であり、生物学者であるW.G.ローゼンによって1985年に提唱された。88年に出版されたE.O.ウィルソンとF.M.ピ-タ-による著書のタイトル『生物多様性』が初出とされる。それ以降、世界中で広く使われるようになったが、標準的、一義的な定義はない。生物多様性条約では、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性(遺伝的多様性、種内の多様性ともいう)という三つのレベルの多様性があるとしている。その語感から、生物の種数が多いか少ないかといった「種の多様性」をイメージしやすいが、それにとどまらず、干潟、サンゴ礁、森林、農地、湿原、河川など、様々なタイプの生態系がそれぞれの地域に形成されていることを指す「生態系の多様性」、同じ種であっても、個体や個体群の間に遺伝子レベルでは違いがあることを指す「遺伝子の多様性」の三つのレベルの多様性を統一的に扱う必要がある。2010年5月に公表された「生物多様性総合評価(環境省生物多様性総合評価検討委員会)」によると、「人間活動にともなうわが国の生物多様性の損失は、森林、農地、都市、陸水、沿岸・海洋、島嶼(とうしょ)といったすべての生態系に及んでおり、全体的に見れば損失は今も続いている」とされている。生物多様性の保全と持続可能な利用のためには、地域の自然的社会的条件に応じて保全するとともに、持続可能な方法で地域の自然資源を利用することが求められる。そのためには、今後のデータや知見の蓄積に応じてシナリオを修正していく順応的アプローチを採用し、長期的視点で保全・利用していくことが重要である。