南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの最終報告書(2013年5月28日)によって被害想定が明らかにされた。2011年東日本大震災の発生を受けて、巨大地震が南海トラフにおいて発生する可能性を追究した結果、地震マグニチュード9.1の南海トラフ巨大地震モデルが提示された。とくに、北限は現在、無感の低周波微動が群発しているフィリピン海プレート先端が、地表から深さ30キロ付近に潜り込んでいる地域まで拡大し、西方向には従来の日向灘地震の震源域を含むようになった。この巨大地震の発生確率は、いまだ明らかではないが、たとえば、高知県や大分県などの海岸低地や湖沼に存在する津波堆積(たいせき)物の調査から、過去5000年の間に、巨大津波が12回発生したことがわかっている。これから、およそ400年に1度の頻度であることが示された。この地震と津波によって、最大震度7と最大津波高さ34.4メートルが発生し、影響市区町村人口(29都府県、680市区町村で災害救助法が適用される可能性があり、震度6弱以上、もしくは津波の高さが3メートル以上。被災地人口と考えてもよい)は5900万人と推定された。犠牲者は最大32万人(風速毎秒8メートル)と想定され、内訳は、津波によって23万人、地震によって8万人、火災によって1万人となっている。この地震が発生すれば、首都直下地震と同じく、わが国が疲弊する「国難」となることは間違いなく、減災の立場から、多くの解決すべき社会的問題が存在している。したがって、これと同時に減災対策の効果も示されており、たとえば、地震の揺れが収まった直後に避難すれば、津波による犠牲者は50%減少するとされ、迅速な津波避難が人的被害を大きく減らすことが強調された。したがって、南海トラフ沿いでおよそ100~150年間隔で起こる地震による津波をレベル1、1000年に1回程度の低頻度の地震による津波をレベル2と定義し、前者を海岸構造物などによって防災を実現し、後者を避難によって人的被害を少なくする減災の考え方が採用された。経済被害については、最大約220兆円になり、震災がれきはおよそ3億トンと評価され、いずれも東日本大震災の10倍以上になることが示された。なお、13年11月に「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(南海トラフ特措法)が国会において成立した。これによって「津波避難対策特別強化地域」や「防災対策推進地域」が指定され、対策が継続的に実施されることになっている。