2013年11月にフィリピンで発生したスーパー台風による高潮災害で、死者が8000人に及ぶ未曽有(みぞう)の被害が発生した。この台風災害が注目されるのは、地球温暖化の進行によって、極端現象が顕在化する典型例となったからである。本台風の当初の中心気圧は1002ヘクトパスカルであったが、急速に発達し、24時間で中心気圧が65ヘクトパスカル低下して、発生後3日後にミンダナオ島に上陸したときは895ヘクトパスカルに達し、最大瞬間風速90メートル/秒と観測史上例を見ない勢力となった。このため、フィリピンでは死者・行方不明者7875人、負傷者2万8626人、被災者1600万人(同国の人口の約15%)という大災害となった。大被害の原因は、第一に、住民は高潮氾濫の危険を事前に理解できなかったことが挙げられる。これはわが国の1959年伊勢湾台風災害と共通する原因で、猛烈な暴風雨の下での高潮氾濫の危険さを過小評価していた。また、台風の北側に位置していたレイテ島タクロバンでは、まず暴風によって住宅が大きく被災し、その直後に高潮と高波で全市内が水没する過程で、ほとんどの住宅が全壊・流失した(海岸堤防は設置されていない)。一方、島の西に位置するオルモックでは、暴風のみによって市内の約90%の住宅が全壊した。このように暴風の影響が非常に大きかった。もしこのようなスーパー台風が東京湾沿岸に上陸すれば、現状の防潮システムでは防ぐことができず、高潮氾濫などによって沿岸人口の0.22%(伊勢湾台風の際の数値を適用)の約3万9000人が犠牲になる可能性があることが見いだされた。