2016年6月3日、フランス・パリを流れるセーヌ川が洪水氾濫した。水位の上昇は過去30年間で最大の約6メートルに達した。パリで発生した大洪水は1910年までさかのぼるが、その時は8.6メートルも上昇し、約2カ月にわたってパリ市街を水没させたといわれる。1910年当時に比べて、パリの洪水が大問題となるのは、同国では大きな地震が発生しないために、地震国に比べて建築基準が緩く、都市が近代化したにもかかわらず、未だに建築物や土木構造物が浸水にも弱いという点にある。たとえば地層は地表から厚い粘土層で覆われているところが多く、地下鉄や地下道はレンガ造りや素掘りの構造のところもあり、地下水位が上昇し長期化すると、粘土から浸みだした漏水で水没の危険がある。したがって、たとえばパリ地下鉄公団の洪水ハザードマップは、セーヌ川の氾濫前に水位上昇に伴う地下トンネルの危険性を表示している。また、石造りの建築物は、浸水によって基礎の粘土層の支持力が小さくなることにより、沈下や傾斜の危険性も指摘されている。事実、2002年の西ヨーロッパ大水害では、エルベ川が氾濫したドイツ・ドレスデン市内で、古い石造りの建物が傾く被害が続出した。わが国とは異なる被害形態である。