嗜癖とは本来、ある特定のものを好きこのむ癖のことであるが、精神科領域では癖よりもさらに強く飲酒や薬物摂取などへの習慣にとらわれてしまい、社会生活、職業生活、人間関係などに支障が生じてさえも、自分ではコントロールできなくなる状態をいう。今日では、依存(dependency)という言葉も広く使われている。嗜癖はその対象物によって三つに大別される。1番目はアルコールや薬物、食物などの物質を摂取する物質嗜癖(substance addiction)、2番目はギャンブル、借金、買い物、携帯電話、仕事など行動に関する行動嗜癖(behavior addiction)、3番目に刹那的な恋愛や暴力的な人間関係などの人間関係嗜癖(human relation addiction)である。問題の背景には家族の機能不全があるといわれている。嗜癖は本人も周囲もなかなか問題を認めたがらないという否認(denial)が特徴的である。そのため相談や治療に結びつき難く、問題が深刻化して生活や人間関係が破綻してしまうこともある。本人や周囲が問題であることを認識するところから治療がスタートするといってもよい。回復には、本人も家族もこうした問題意識を持ち続け、過去の自分や人間関係の持ち方を振り返り、これからの生き方を再構築していくことが重要である。そのために病気の知識を学ぶ心理教育や、家族教室、自助グループへの参加が有効である。