心臓の壁は特殊な筋組織でできており、これを心筋という。顕微鏡で見ると、心筋は骨格筋と同じように線維に横縞が見えるので、横紋筋である。しかし骨格筋と異なり線維に枝分かれが多く、また細胞同士が融合していない。心筋細胞同士はたがいにイオンを自由に通すギャップ結合により機能的につながれていて、電気的な収縮刺激を速やかに隣に伝えていく。心筋細胞は活動の際に細胞内電位が脱分極(興奮)するが、神経や骨格筋などと異なり脱分極の状態が長く続く。それに対応して心筋の収縮も持続時間が長い。これは心臓の律動的なポンプ作用に不可欠な性質である。さらに心筋は、生理的な範囲では、引き伸ばされるほど張力を増す性質をもっている。心臓はこの性質により、心房に大量に血液が戻ってきたときには心室からより強力に血液を送り出すことになり、流入量と流出量のバランスを自動的に保っている。心筋が侵されて心機能が低下する心筋症(cardiomyopathy)という病気がある。その中には、ウイルスによる心筋炎や、全身性の疾患に伴って心筋が侵される場合もあるが、原因不明で心筋の収縮力が弱くなる拡張型心筋症や、心筋が肥大して拡張性が悪くなる肥大型心筋症などがあり、病因の解明と治療法の開発が待たれている。