心臓に血液を供給する血管が、冠状動・静脈という名前なので、心臓の循環を冠状循環という。左右の冠状動脈は、大動脈弁のすぐ上の大動脈起始部から起こり、心房と心室の境界に沿って、心臓をとり巻くように走る。左冠状動脈はただちに分かれて、前壁を下行する前室間枝と、心臓左面を回り込む回旋枝になり、右冠状動脈は心臓の右面を回り込み、後面を下行する後室間枝になる。これらの枝は、たがいにほとんど吻合がないために、1本の枝が詰まるとそこから先の心臓壁に重大な循環障害を起こす。冠状循環の血流量は1分当たり250ミリリットルほどで、心拍出量の4%に過ぎないが、酸素の消費量では全身の11%を占める。血液中の酸素の利用度では、全身の臓器の中でもっとも高い。しかも激しい運動の際には、心筋の酸素消費量は、安静時の9倍にも増える。冠状動脈には、心筋の活動状態に合わせて、自動的に血管平滑筋がゆるみ、血管抵抗を減らして血流量を増やす仕組みが備わっている。冠状動脈が狭くなり、心筋の酸素消費の増加に合わせて血流を十分に増やせない状態を、狭心症(angina pectoris)といい、冠状動脈の硬化した人が、運動をしたときなどに起こる。また動脈硬化などで冠状動脈が狭窄し、十分に血液が行き渡らないために、心筋の一部が壊死を起こすのが、心筋梗塞(myocardial infarction)である。