脳に血液を送る動脈は、左右の内頸動脈と椎骨動脈である。これら4本の動脈は、脳底部のウィリスの動脈輪によりたがいに吻合し、そこから脳の中に向かう。脳底の動脈の吻合路は十分に太くないので、血流量の多い内頸動脈が閉塞すると、脳への血流が不足して機能障害を起こす。脳は安静時で心拍出量の約15%の血流を受けている。脳の組織はほとんどブドウ糖だけをエネルギー源とし、かつその貯蔵もごくわずかなので、安定した血流を受けることが、脳の機能を維持するのに不可欠である。そのため、運動やさまざまのストレスによって血圧が変動しても、脳の血流量をほぼ一定に保つ機構が、脳の血管系に備わっている。脳が頭蓋骨という一定容積の空間の中に収められていることが、この自動調節機構の一因となっている。脳の循環が突発的に障害されることを、脳卒中という。脳卒中には、いくつかの病気が含まれている。脳の血管がふさがる脳梗塞(cerebral infarction)には、脳の動脈の中で血液が固まる脳血栓と、他の臓器でできた血液の塊が流れてきて脳の動脈で詰まる脳塞栓が区別される。頭蓋内の出血では、脳の実質内に起こる脳出血と、脳の表面に起こるクモ膜下出血が区別される。脳卒中といっても病気の種類によって治療法が異なる。脳は脳脊髄液の中に浮いているが、この液も脳室とクモ膜下腔の中で、ゆっくりと循環している。脳脊髄液の分泌と吸収のバランスが崩れると、脳脊髄液の圧が上昇して、脳の機能に影響を及ぼす。