動脈の壁は、血圧や血流によって絶えず傷つけられ、血液中の成分が内膜を通してしみこんで、壁の構造にさまざまな変化を起こしてくる。動脈硬化(arteriosclerosis)とは、こういった変化の結果、壁の平滑筋細胞が増殖し、結合組織が増加し、石灰分などが沈着して、動脈壁が分厚く硬くなった状態である。動脈硬化の代表的なものは、大動脈とその主要な枝の内皮の下に脂肪沈着を起こす粥状動脈硬化(atherosclerosis)である。動脈硬化は、年齢とともに進行し、なりやすい遺伝的な素因があるが、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病などの要因があると、悪化しやすい。脳、心臓などの重要臓器の血管に動脈硬化が起こり、血液循環が悪くなると、その臓器の機能が低下したり停止する合併症を起こす。動脈硬化と高血圧とは、本来別の疾患であるが、たがいに密接な関係がある。動脈硬化があると、末梢の血管抵抗が増したり、腎臓の循環を悪くして、血圧を高めるレニン・アンジオテンシン系が働いて、高血圧を促進する。また高血圧は、動脈壁に負担をかけて、動脈硬化を悪化させる。日本人の死因の第1位は悪性新生物(がん)で、その比率は年々増しているが、第2位の脳血管疾患の大部分と、第3位の心疾患の半数近くを占める虚血性心疾患が、動脈硬化と高血圧を背景として起こることを考えると、死因としての重要度は、決して小さくはない。