喉頭は咽頭からの空気の取り入れ口である。ここから肺にまで至る下部呼吸路は、消化管の腹側壁が落ち込んで生じる。初め1本の管として生じた落ち込みは、気管として進むにつれて、まず、二股に分かれて左右の肺に向かう気管支となり、さらに肺の中の気管支の枝分かれに対応する分岐を作っていく。肺は、硬骨魚類の鰾(うきぶくろ)に対応する構造である。硬骨魚類のほうが全般に体制が原始的だからといって、鰾から肺が進化してきたわけではない。そのことは、硬骨魚類の中でも肺をもつものがいたり、また鰾でも、原始的な硬骨魚類のものは肺と同様に消化管の腹側に付属している、といった観察から分かる。消化管の腹側にできた喉頭以下の下部呼吸路に対し、空気の取り入れ口にあたる上部呼吸路は、消化管の背側にある。これは、鼻腔が本来は口の背側の体表に開く嗅覚器で、二次的に口腔に開いたという事情による。このため、空気の道と食物の道は咽頭で交差せざるをえなくなる。大半の哺乳類では、喉頭の軟骨が後鼻孔の中に突出するため、両方の道は立体交差のように分離されている。これに対しヒトでは、喉頭軟骨の位置が下がっているために、空気の通過と食物の通過を時間的に分け、いわば信号機のついた交差点のようにして両者を分離している。このため食物が喉頭に入る誤嚥(ごえん)の可能性が生じるのだが、この仕組みのおかげで、ヒトは喉頭の声帯で作った空気の振動を口腔で共鳴させて、さまざまな音声を発することができる。