ヒトの祖先にあたる脊椎動物は、顎(あご)のない魚類である無顎類(むがくるい)として地上に現れた。この動物は、口から吸い込んだ水を鰓(えら)でこし、その中のプランクトンを採るなどして生きていた。可動性の顎を発達させて無顎類から顎口類になったのは、脊椎動物の進化における大発明であった。顎口類の最も原始的な類である板皮類は、全身を覆う甲皮をもつ絶滅した魚類である。この類からは、軟骨魚類と硬骨魚類という二つの群の魚類が現れたが、そのうち人類の祖先になったのは、硬骨魚類である。これら二群の魚類は、水中生活によく適応し、その子孫は現在でも水中で繁栄している。
原始的な硬骨魚類は、鰓により水中の酸素をとるほかに、肺により空気中の酸素をとる道も獲得したが、現生の硬骨魚類の多くでは、肺はむしろ鰾(うきぶくろ)に転用されている。原始的な硬骨魚類のうちで肉質の鰭(ひれ)をもつものが、陸上生活をする四肢動物の祖先となった。最初に上陸したのは両生類で、卵を乾燥から保護する機構がないために、水中に産卵し、そのため水辺から離れることができなかった。両生類の子孫はイモリ、カエルなどとして生き残っている。四肢動物が完全に陸上生活に適応するためには、胚を保護する卵殻と羊膜を発明して、無羊膜類から有羊膜類に進むことが必要であった。最初の有羊膜類は、爬虫類であった。爬虫類の一部は恐竜として一時繁栄したが、中生代の終わりに絶滅した。爬虫類として生き残っているのはヘビ、トカゲ、カメ、ワニなどである。爬虫類から生じた鳥類は、飛行に適応して、空中の生活環境を支配した。爬虫類からのもう一つの枝分かれである哺乳類は、全身を毛で覆い、乳により子供を育てる様式を確立して、大成功をした。哺乳類の中では、卵生の単孔類や、小さな新生児を哺育嚢で大きく育てる有袋類があまり成功しなかったのに対し、胚を子宮内で大きく育ててから出産する真獣類は、さまざまに適応放散し、地上の生活環境をほぼ独占した。真獣類はさまざまの類に分かれているが、ヒトは、その中の霊長類から生じた。