消化器は、口から肛門まで続く1本の管と、それに付属する腺からなる。脊椎動物の進化史を通じて消化器のこの形は変わらないが、食餌のとりかたには変遷が見られる。最も原始的な脊椎動物は、顎(あご)をもたない無顎類(むがくるい)という魚で、口から水を取り入れ、鰓(えら)からそれを出す際に、プランクトンなどを濾過摂食していたと考えられる。無顎類の最前方の鰓が発達して顎になり、顎口類という顎をもつ脊椎動物になった。顎が生じて獲物を口で捕らえることができるようになり、鰓は摂食という機能から解放されて、呼吸機能を営むようになった。現生の魚類のほとんどは、鰓を呼吸器官として用いている。
その後、ヒトの祖先の脊椎動物は、両生類となって陸に上がり、爬虫類となって陸上生活に適応したが、やがて哺乳類となる頃に、消化管の入口である口に大変革を生じた。頬と唇と口蓋ができて、口腔が閉鎖できる空間となり、さらにそれまでの単純な形の歯が、門歯、犬歯、前臼歯、臼歯という異型歯に分化したことである。哺乳類は、生まれてから母乳によって栄養されるが、口腔を閉鎖できることで、乳を効率的に飲むことができるようになった。じっさい口蓋裂のような形態異常では、唇や口蓋が開いて乳を飲みにくい。また閉鎖可能な口腔と異型歯を組み合わせて、哺乳類は口の中で食物を咀嚼(そしゃく)することができるようになった。爬虫類や両生類は、獲物を丸ごと飲みこんでしまうので、哺乳類ほどにさまざまなものを食べることができない。