ヒトは、直立し、二足歩行する。ヒトの身体は、この姿勢を前提として初めから設計されたわけではない。水中を泳ぐ魚類の時代、陸上を這って進む両生類と爬虫類の時代、そして4本の脚で立って進む哺乳類の時代を経て、直立二足歩行の人類になったのである。魚類から四肢動物になるにあたって、胸鰭(むなびれ)と腹鰭が、上肢と下肢に変わったが、これに伴って内部の骨格や筋にも大きな変化が起こっている。鰭の骨格は脊柱と特につながりがないが、四肢動物では下肢のつけねの寛骨が脊柱に固定されて、骨盤を作るようになった。また魚類では、水中で身体をくねらせて推進力を生むために、脊柱の上下に均等に筋が発達しているが、四肢動物では身体を地上に支えるために、脊柱の下の筋が発達するようになった。
這って進む爬虫類から、立って進む哺乳類になるにあたって、四肢の位置は身体の横から下に変わった。その際に、手が前向きでかつ肘が後向きになるために、前腕の骨にねじれが生じた。前腕を自由にねじることができるのに、下腿がねじれないのは、このためである。また骨盤の直前のいくつかの椎骨から肋骨がなくなって腰椎となり、この部分の脊柱の可動性が大きくなった。ヒトが腰をねじって寝返りがうてるのも、また腰痛に悩むのも、腰椎に可動性があるためである。直立二足歩行を達成することにより、骨格はさらに変化した。身体を骨盤の上で安定させるために、脊柱は腰のところと頸のところで後ろに曲がる。また内臓が下に落ちないように支えるために、骨盤の形が横に広がった。また骨盤の出口も、必要最小限のものだけを通すように狭めてあるが、女性は出産をしなければならないので、この出口が大きめにできている。人間が、他の哺乳類に比べて難産なのは、直立二足歩行をすることが大きな原因である。