人間の耳は、空気の振動を鼓膜にまで伝える外耳、鼓膜の振動を三つの骨を介して伝える中耳、そして伝えられた振動を神経の刺激に変える内耳からなる。内耳は音波のほかに、頭部の回転や傾きといった平衡感覚も感知する。中耳の構造は、祖先の魚類から哺乳類に至るまでの間に、大きく変化した。人間の祖先は、魚類の時代にまず耳小骨を一つ獲得したが、それは2番目の鰓弓(さいきゅう)の舌下顎骨を転用したものであった。両生類と爬虫類の時代には、柱状の耳小柱となって、体表と内耳をつないでいた。爬虫類から哺乳類の段階になるにあたって、二つの耳小骨がつけ加わった。これは、もともとは1番目の鰓弓に由来し、爬虫類で顎関節を作っていた関節骨と方形骨を転用したものである。爬虫類の耳小柱は、内耳に最も近いアブミ骨となり、関節骨と方形骨はそれぞれツチ骨とキヌタ骨になった。ヒトの頭部の発生をたどると、ツチ骨とキヌタ骨が第1鰓弓から、アブミ骨が第2鰓弓から由来する過程をみることができる。中耳の骨の進化に関するこの学説は、二人の主唱者の名をとって、ライヘルト・ガウプ説と呼ばれる。