人間の鼻は、呼吸のための空気の入口であり、嗅覚の器官であり、さらに涙の排出路でもある。これらの役割のうち、系統進化において最も古いものは、嗅覚である。魚類の嗅覚器官は、体表から入って体表に抜ける1本の管である。四肢動物になるにあたって、この管と口腔の間に孔があいて、嗅覚器としての鼻が呼吸器の入り口としても使われるようになった。そして体表に開いていた二つの孔の一つは鼻孔となり、もう一つは眼の近くに移動して、鼻涙管の入口となったといわれている。この頃の鼻腔は、口腔との間にとくに境目がなかった。哺乳類になるにあたって口蓋が形成されて、口腔から仕切られた独立の鼻腔が生じたのである。