身体の、そして細胞の老化には、おそらくいくつもの原因があり、互いにからみあっている。遺伝子そのものに老化の原因を求める考え方には、二つの説がある。老化プログラム説では、細胞の老化や死を引き起こす老化遺伝子や、老化すべき時期を数える老化時計を想定し、すでにプログラム化されている老化遺伝子の発現によって老化が進むと考える。健常人よりも早く老化を起こす遺伝病(早老症)が知られているが、その原因遺伝子はまだ同定されていない。また、ヒトの身体からとった培養細胞の分裂回数に上限があることから、細胞分裂の回数を数える時計遺伝子が想定され、染色体末端部のテロメアなどが、その候補にあげられている。しかし培養細胞の分裂停止と、個体の老化の間にどのような関係があるかは、まだ分かっていない。もう一つの説である老化DNA傷害説では、細胞分裂に伴う遺伝子複製の際や、放射線などにより遺伝子が傷害されその修復の際に、遺伝子にエラーが紛れ込み、さまざまな障害因子が蓄積され、老化が促進されると考える。