身体の老化は、さまざまな器官の機能の衰えとして現れる。全身の老化の背景に、身体を構成する細胞の老化があることは疑いない。皮膚から線維芽細胞をとってきて培養すると、若い人からの細胞ほど分裂能力が大きい。また、高齢の母親から生まれた子供ほど、染色体異常の疾患であるダウン症になる確率が大きいというのも、母親の卵巣の中で卵細胞の老化が進んでいる証拠と考えられる。実際、身体の組織の中でも、年齢とともに細胞の異常が増すことが観察される。ヒトの肝細胞の核は、年齢が進むと細胞の間で大きさのばらつきが大きくなる。これは、染色体が複製されながら分裂しない多倍体細胞の割合が増えるためと考えられる。また神経節細胞、肝細胞、尿細管細胞、心筋細胞など、もはや細胞分裂をしない細胞では、リポフスチンという老化色素が、細胞質の中に年齢とともに増えてくる。リポフスチンは黄褐色の顆粒状物質で、不飽和の脂質を含み、細胞の水解小体が異物を消化した後に残ったものと考えられる。