成人の身体の細胞は、分裂しないかあるいは分裂が適当に抑制されている。成人の神経細胞や肝細胞は分裂しない。肝臓の一部を取り除くと肝細胞は分裂を再開するが、肝臓の組織が元の量に達すると分裂を停止する。成人の神経細胞が分裂によって増えることはない。細胞が分裂しないのは、発生過程の間に分化してもはや分裂能力を失っている場合もあるが、周囲の環境から情報を読み取って、分裂を抑制している場合もある。細胞を増殖させたり分裂を抑制する因子として有名なものには、トランスフォーミング成長因子(TGF)や、上皮成長因子(EGF)、神経成長因子(NGF)などがある。しかし生体の中の細胞は、周囲の細胞や細胞外基質と接触しながら生きており、細胞膜物質や細胞外基質の有無によっても分裂を調節されている。正常な細胞を分離して培養した場合には、細胞がまばらの間は分裂を続けるが、細胞同士が接触すると分裂が停止するという接触阻止(contact inhibition)という現象が知られている。がん細胞では接触阻止が起こりにくくなっていて、互いに多層に重なり合う。