脳の神経細胞は、ほぼ20歳頃をピークにして減り始める。神経細胞の減り方は脳の部位により異なるが、大脳では140億個の神経細胞のうち、1日に10万個もの割合で減るといわれる。老人の知能は、体力の衰えに比べればよく保たれるが、それは脳の神経回路の代償機能が大きいためである。とはいえ、老人になると、中枢の特定の部位の障害による神経症状や、さまざまな精神症状の頻度が高くなることが知られている。老人の筋肉が硬くなって、手がふるえ、早く歩けなくなったり、また、老人に睡眠障害が多いのは、脳の中の黒質や青斑核の神経細胞が減少するのと関係があると考えられる。40~60歳代の初老期には、うつ病に似た状態になる人が多く、初老期うつ病(presenile depression)とよばれる。また脳の器質的な変化が原因となって痴呆や人格変化を起こす初老期痴呆(presenile dementia)という病気もある。日本ではその原因の第1は、脳動脈硬化であり、第2がアルツハイマー病(Alzheimer's disease)である。アルツハイマー病は、脳の中にアミロイドたんぱくが沈着して老人斑を作るのが特徴である。2~10年の経過で痴呆が進行し、最後には植物状態にまでなるので、病因の究明と治療法の開発が急がれている。