ヒトの初期胚(胚盤胞という受精後5日前後の段階)の内部から取り出した未分化細胞を、特定の細胞や組織にまで培養できる万能細胞(胚性幹細胞、ES細胞)にする技術が1998年にアメリカで開発された。これにより、移植臓器の不足問題などの解消が期待され、再生医療の中核技術となっている。イギリスやアメリカでは、ヒトES細胞研究について国家的にも議論が進められ、国際的な研究競争の中、倫理問題へのさまざまな対応が見られる。日本では2000年2月に科学技術庁が「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方(案)」(科学技術会議ヒト胚研究小委員会報告案)に関して意見を募集するなどの動きがあり、01年8月には文部科学省より研究指針が示され、不妊治療のため体外受精で生じた受精卵のうち、使われなかった、いわゆる「余剰胚」の利用が認められた。余剰胚といえども、一人の人間となる可能性を秘めた「生命の萌芽」であり、「廃棄」とされても、破壊することには議論もある。03年5月に、京都大学において日本初のヒトのES細胞が作製され、日本でも研究振興が図られているが、そのような中、05年12月に韓国でヒトES細胞に関する論文捏造問題が明らかになり、卵子をボランティアから入手する方法にも問題があるなど、ES細胞研究の倫理に関する議論は続いている。また、ES細胞以外にも、筋肉や造血細胞などに見いだされる体性幹細胞や、ES細胞に近い万能性をもつ人工多能性幹細胞(iPS細胞)利用も研究されている。