日本では、本人の意思を尊重し人間の尊厳にふさわしい死という意味で「尊厳死」という言い方も使われているが、最近では、裁判例などもあり「安楽死」が再び使われだしている。しかし、その場合では、従来と異なり、現在では、本人の事前指示(advance directive)が前提となっており、苦痛を訴える本人の同意なしに見るに見かねて「情けを持って」死に至らしめるという意味での安楽死ということはない。最近問題とされるのは、積極的な延命治療を拒否して自然に任せる「消極的安楽死」ではなく、本人の意思に基づいて、医師が直接的に死に至る処置を施す「積極的安楽死」の是非である。オランダでは1994年1月から、条件付きで医師が投薬や注射などにより末期患者本人の意思に基づき積極的な安楽死を行うことを認めるように、埋葬法の改正が行われた。これまでも、医師会で作成した基準に沿っている場合には司法判断で安楽死は容認されており、この法律は当時の慣行に法的根拠を与えるものとなっていた。しかし、2001年4月11日に「安楽死法」が成立し、完全に合法的に安楽死ができるようになったといえる。ついで02年、ベルギーでも安楽死法が成立し、ヨーロッパではフランスやイギリスでも安楽死容認の動きがある。日本では、1991年の東海大学事件、95年の京都府の「国保・京北病院」の事件などを契機に議論がなされてきたが、積極的安楽死の容認には慎重である。ただ、95年の東海大学事件に対する横浜地裁判決が、日本での基準として示されている。すなわち、(1)患者に耐えがたい苦痛がある、(2)患者の死期が迫っている、(3)苦痛を除く方法を尽くし、代替手段がない、(4)患者本人が安楽死を望む意思表示をしている、の4条件である。