遺伝子解析において問題とされることは、遺伝情報が他の医療情報と異なり、その関係する範囲が個人にとどまることなく家族・親類といった広範囲に及ぶことである。また地域住民を対象とした遺伝子解析では、その結果によっては、地域住民への差別に関係することも懸念されている。そのため、遺伝子解析研究では次のような倫理的配慮が求められている。(1)個人情報の保護、特に研究資料の外部への流出防止や匿名化。(2)生命倫理の原則から、特に試料提供者に対してインフォームド・コンセントによる慎重な対応を行う。また、すでに収集してある試料を当初の目的とは異なる目的で利用する際は、改めてインフォームド・コンセントを実施する配慮が必要であり、それが不可能な場合でも倫理委員会での検討を行う。(3)解析結果に対する提供者の不安に対処するために遺伝カウンセリングを行う体制を整える。(4)研究の監督も研究機関内部のものによるだけではなく、外部からの実地調査を行う。以上のような点はわが国の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」においても示されている。このような倫理指針は、病気と生活習慣との関連などを調べる疫学研究一般への倫理問題にもかかわっている。2002年6月厚生労働省と文部科学省より疫学研究に関する倫理指針が公表された。これは、国から資金を得ている研究においては順守すべきものであり、調査対象者への事前の説明や、血液などの採取は文書でのインフォームド・コンセントを義務付けている。また最近では、自治体や企業が、職員が就業時に災害の犠牲になった場合に備えて、職員の身元確認のため、あらかじめDNAを保管しておくDNA採取事業が始められている。その目的に限って利用されることが倫理的には前提であり、管理、運営は慎重さが求められる。