代理出産という用語は、これまでさまざまな意味で使用されている。これは、生殖技術の発展に議論が影響されているからである。夫の精子による人工授精によって、第三者の女性に子どもを出産してもらう「代理母」、夫婦間の体外受精によって得られた受精卵を第三者の女性の子宮に移植して出産してもらう「借り腹」などがある。どちらも第三者の女性の子宮を利用して子どもを得る方法だが、最近では代理出産というと「借り腹」を指すことが多い。いずれにしても、第三者の女性の身体を手段として利用すること、出産する女性の権利、何より誕生してくる子供の権利や健康などをめぐる問題から、倫理的に議論がなされている。日本では、代理出産が日本産科婦人科学会の会告により禁止されていることから、国内の斡旋業者の仲介により海外で行う例も知られている。また、会告には法的拘束力がないので、代理出産の実施を明らかにしている開業医もいる。海外で体外受精により得た子供を、帰国後に実子として戸籍登録する例もあるとされる。アメリカでの代理出産の実施を公にした女性タレント夫婦が、出生届を受理するように求めた裁判では、2007年3月に最高裁が民法に照らして子供を産んだ女性を母親とする判決を下したことが大きな社会的関心を呼び、日本における法整備を求める声も大きくなっている。精子、卵子、受精卵の提供者が誰かなど、代理出産をめぐる複雑な人間関係が子どもに与える影響や、第三者の女性を「手段」とすることの是非、出産後の子どもの人権、夫婦や出産した女性の精神面へのカウンセリング体制の整備も議論されている。なお、第三者の女性から卵子の提供を受け、夫の精子との体外受精によって得た受精卵を妻の子宮に移植して出産することも、卵子提供者から見れば「借り腹」であるが、この場合には「代理出産」とはいわない。