「プロテオーム」とは「たんぱく質(protein)」と「ゲノム(genome)」をつなげた語であり、ゲノムが人間の持つ遺伝子(実際はDNA)の総体を指すのに対して、プロテオームは人間が持つたんぱく質の総体を意味する語として使われる。2003年4月にヒトゲノムの完全解明がなされたが、ポストゲノム計画として「ヒトプロテオーム計画」が立案された。DNAの塩基配列という構造の解明から、その多くにおいて未知であった機能の解明が、有用なたんぱく質の発見や創薬に結びつくと期待されている。国際的な機関として「ヒトプロテオーム機構(Human Proteome Organization)」が設立されて研究の推進が図られている。ヒトゲノム計画においては、ヒトの持つ全DNAの解明が目指されたが、それと同時に遺伝病に関する診断法や遺伝子治療をめぐる倫理問題が議論され、研究計画の中にELSI(Ethical, Legal and Social Implications)研究が組み込まれ、バイオエシックスの主要な研究課題となった。ヒトプロテオーム計画はまだ始まったばかりだが、ヒトゲノム計画と同様にヒトの遺伝情報にかかわるとともに、研究対象となった個人に特異なたんぱく質が発見された場合なども含め、研究で知り得た情報をめぐるプライバシーなどの倫理問題が議論されよう。たんぱく質は、その一次構造(アミノ酸の配列)に関しては基本的にDNAの塩基配列によるが、修飾される構造や三次元の構造については、細胞内での遺伝子の発現後の反応によって決定され、たんぱく質の構造や機能の解明には、細胞内の動的なメカニズムの解明が重要になる。人間の遺伝子数は2万数千ともされるが、たんぱく質は約20万種類以上ともいわれ、発見されたたんぱく質情報の特許の問題などがより複雑に提起される可能性がある。このような研究の特徴からしても、情報の管理、使用や特許権などの議論が研究方法論とも関連し、複雑な倫理問題の検討が必要になる。