2006年にマウスの体細胞から遺伝子操作で作られた、培養条件によって目的の組織の細胞に分化させることができる細胞。当初は「誘導性万能幹細胞(induced pluripotent stem cell ; iPS cell)」と名づけられたが、今日、日本では一般に「人工多能性幹細胞」または「iPS細胞」と呼ばれている。京都大学の山中伸弥教授らが作製に成功した。ES細胞(胚性幹細胞と同等の万能性を有し、ヒトES細胞の作製にともなう初期胚破壊、クローン胚製造といった倫理問題をクリアできるのがメリット。さらに07年11月に山中教授らが、ヒトの体細胞からのiPS細胞作製を報告すると、再生医療への応用で期待が高まり、政府も研究費の支出を決定。国際的な研究開発競争もあいまって、社会的関心を集めるようになった。しかしながらiPS細胞研究の倫理問題として、生殖細胞の作成、遺伝子操作にともなうがん化の懸念、体細胞の初期化(受精卵と同様な能力を持たせること)、つまり「全能性(個体になる能力)」をもたせることなどがあげられ、研究開発にはこうした問題の検討も不可欠との指摘がある。そのような中で、08年11月に文部科学省の科学技術審議会は、受精卵を作らないことを条件に、精子と卵子を作製する研究を認める方針で合意した。