脳科学や神経科学について、その応用や研究のあり方をめぐる倫理問題を探究する学問分野のこと。日本では主にカタカナ語の「ニューロエシックス」が使われているが、「脳神経倫理学」という訳語も用いられるようになってきた。近年、脳科学や神経科学の進歩は目覚ましく、内部構造や機能は分子レベルまで解明されており、人間の精神機能、運動機能、行動への理解も進んでいる。そしてその成果は、ロボット工学、認知科学、コンピューター科学、情報科学などの工学技術と結びついて産業や軍事への転用も考えられている。一方で、本来の医療目的を逸脱し、人体能力の増強(エンハンスメント)などへ向かうことに対する倫理問題が議論されている。ニューロエシックスは、こうした脳・神経科学研究の成果と応用に生じる倫理問題に際して、単なる「脳・神経科学の倫理学」ではなく、人間の倫理的な判断や行動そのものを脳・神経科学的に解明しようとする「倫理の脳・神経科学」とも考えられる点で特徴がある。介護ロボットや人間のサイボーグ化などが、一般の人々の間でも注目されるようになった状況においては、そのような科学技術が人間観や生活のあり方にどのような影響を与えるか、といった倫理問題にも注意していかなければならない。