2003年に世界各地で猛威を振るい、多くの死者を出した重症急性呼吸器症候群のこと。その病原体は新種のコロナウイルスと同定され、SARSウイルスと命名された。もともとは、おそらく何らかの動物に由来するウイルスと考えられるが、その起源についてはさらに研究が必要である。これまでに知られていたヒトのコロナウイルスは、一般に鼻風邪程度の軽い上気道炎を起こすだけで、高熱が出たり肺炎を起こしたりするケースは少ない。ところが、SARSウイルスは高熱、激しいせき、肺炎などを引き起こす。2~7日の潜伏期間を経て38度以上の高熱を発し、悪寒、頭痛、筋肉痛などの症状が現れてくる。続いて痰のからまない乾いたせきや呼吸困難がみられるようになり、人工呼吸器が必要なほど重症化する場合も10~20%ある。致死率は約15%にも達し、これはエボラ出血熱や日本脳炎に比べると低いものの、インフルエンザよりかなり高い。SARSの年齢と重症化率の関係では、高齢者で死亡率が非常に高いのも特徴である。