これまでの抗微生物薬、特に抗菌剤開発の原則は、微生物側にあって宿主にはない構造や分子を標的にすることである。ウイルスに対してもこのアプローチが使われている。エイズの治療薬は最も成功しているものの一つであるが、それはHIVのもつ酵素である逆転写酵素とプロテアーゼを標的としている。アシクロビルは、ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼによってリン酸化された後で効果を発揮するために、ウイルス感染細胞でより選択的に働くという特徴をもつ。またインフルエンザウイルスに対しても効果のある薬剤が開発されている。独立して増殖することのできる細菌と異なり、ウイルスの場合は、設計図となる遺伝子だけが自前であとはほとんど細胞の工場を利用しているので、次の目標はウイルスの増殖に必須であって宿主にはそうではないステップや分子を標的にすることである。