近年、医療訴訟が急速に増加しているが、訴訟は原告の患者側、被告の医療者側いずれにとっても精神的・金銭的負担が大きく、しかも長期化しやすいことが問題となっている。また訴訟の増加は医療者側を委縮させ、医療の質を落とす可能性が指摘されており、実際に小児科や産婦人科など訴訟の多い分野では医師不足が顕在化しつつあり、大きな社会問題となっている。裁判外紛争解決手続き(alternative dispute resolution ; ADR)とは、訴訟を行わずに第三者が事実認定を取り持つことで和解を目指すための仕組みであり、日本でも2007年4月に法制化された。これを医療分野に取り入れたのが医療版ADRである。中立的な立場で医療事故を仲裁することを目的とし、医療従事者や弁護士、研究者に加えて被害者の家族も運営に参加する。単に勝ち負けを争う裁判と異なり、患者側が望む原因究明や再発防止に重点を置くことが特徴である。医療訴訟の原因として患者と医療者のコミュニケーション不足も大きなウエートを占めると考えられており、第三者の仲介で誤解や感情的な対立を防ぐことにより、両者にとってよりよい建設的な解決方法を見いだすきっかけになることが期待される。