医療決断支援師とは、患者と医療者の間に立って医療の円滑化を図るための専門家のことである。最近の医療現場ではインフォームド・コンセント(患者への説明と同意)が重視されるようになってきており、「医師の助言のもとで患者自身が自分の治療方針を決定する」ことが求められるケースが多くなりつつある。しかし、ほとんど医療知識を持たない患者側が、提示された医療内容の是非について適切な判断をするのは困難な一方、医師側も限られた時間の中で十分な説明を行うことは難しいという問題がある。その結果、患者が十分な理解や納得を得られないまま治療が行われることになり、医療への不信が高まる一因にもなっている。こういった患者と医療者側の情報や信頼関係のミスマッチを防ぐため、医師と患者の間に入って情報の共有を促し、患者の決断を支援する専門家の育成が求められている。欧米では1980年代よりこのような専門職が医療現場で活躍していたが、日本では国民健康保険の枠組みで認められていないこともあり、一部の医療関係者が、患者の依頼やボランティアでサポートするにとどまっていた(九州大学の稲津佳世子医師が中心となって発足した「医療決断サポーター養成講座」や、嵯峨崎泰子氏が設立した「日本医療コーディネーター協会」など)。しかし、2007年1月に早稲田大学で各団体の代表が集まり医療決断支援開発機構が発足するなど、徐々に体制が整いつつある。今後は、患者および医療者に対する認知度の向上とともに、十分な医療の知識と患者への心理的サポート能力を兼ね備えた人材の育成が急務となっている。