原虫である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)に感染して臓器病変を形成したものをアメーバ赤痢と呼ぶ。通常は粘血便、しぶり腹(テネスムス)、腹痛といった腸管症状を示すが、腸管外に病変を作ることもある。赤痢アメーバのシスト(嚢子)に汚染された飲食物などの経口摂取により感染すると考えられ、多くの先進国では流行していないが、感染率が高い集団(発展途上国への旅行者、知的障害者施設収容者など)が存在する。男性同性愛者にも多く見られることから性感染症(STD)の一つとも考えられている。赤痢アメーバは全世界の人口の10%(約5億人)に感染しているとされてきたが、近年、病原性(E. histolytica)と非病原性(E. dispar)の2種が存在することが明らかとなり、病原種の感染者は約5000万人(人口の1%)程度であった。潜伏期間は2~3週間とされるが、数年におよぶこともある。腸アメーバ症は、下痢、イチゴゼリー状の粘血便、しぶり腹、下腹部痛などの症状を伴う場合(狭義のアメーバ赤痢)と、アメーバ性大腸炎と呼ばれる下痢と腹痛を特徴的とする場合がある。腸外アメーバ症では肝膿瘍が最も多く、発熱、右上腹部痛、肝腫大(肝臓の腫れ)、吐き気、嘔吐、体重減少、倦怠感などを伴う。診断は糞便や組織標本上に赤痢アメーバが観察されること、内視鏡検査、血清抗体価測定などによる。E. histolytica感染者は治療が必要で、第一選択薬としてメトロニダゾールが使用される。ワクチンは存在せず、不衛生なものを経口摂取しないことが予防法となる。