物理的な衝撃により、脳の神経軸索が損傷を受けることを外傷性脳損傷(TBI ; traumatic brain injury)と呼ぶ。程度に応じて軽度(mild)、中等度(moderate)、重度(severe)に分類される。そのうち軽度外傷性脳損傷(MTBI ; mild TBI)は、交通事故、転倒、スポーツなどによって発生することが多い。症状は傷害部位によって異なるため、多彩であり、高次脳機能障害を起こすと記憶力・理解力・集中力が低下したり、五感の感覚障害や筋力低下を引き起こしたりする。国内には疾患概念がなく、脳に出血をともなわない多くの場合は、MRIやCTなどの画像検査では検出できないため、外傷性頸部症候群(むち打ち症)、または心理的要因による症状として診断されてきたものも多い。それらは正当な賠償や補償を受けられず、社会問題となっている。アメリカではすでに、MTBIは公衆衛生上の重要課題として認識されており、国内での診断基準作成を含めた早急な対策が求められている。