出産前、母親の子宮内にいる段階で先天的な疾患をもった胎児に対して行われる手術のことをいう。出産後に手術をしても病状が進行しているため、死亡あるいは重度の障害を残す可能性が高い場合に行われ、救命率や治療効果の上昇が期待されている。この治療が出現した背景には、妊婦への超音波検査などの普及により胎児の様々な先天性疾患が出産前に診断できるようになったことや、手術機器の小型化といった技術の進歩がある。胎児手術には、胎児を子宮から取り出し、治療後に再び子宮に戻して妊娠を継続する方法と内視鏡などを用いて子宮内で治療を行う方法がある。手術の対象は先天性横隔膜ヘルニア、先天性尿路閉塞症などの先天性疾患である。肺に水が貯留する単純性胸水症では、特段の治療をしなくても30~40%が生存するが、胸腔-羊水腔シャント手術により60%程度に向上するという。胎児手術は、1985年にアメリカで胎児の尿路手術が行われて欧米で本格化した。わが国では、胎児は健康保険の対象外になることなど様々な障壁で普及が遅れていたが、2004年国立循環器病センター(大阪・吹田市)において、先天性尿路閉塞症に対して尿路-羊水腔シャント手術(超音波で確認しながら人工の尿路となるカテーテルを設置する)が実施された。これが、05年にわが国で初めて高度先進医療(当時)として認定されたことで、ようやく胎児手術が本格的に医療体系に組み込まれた。今後の課題としては、各疾患での重症度や手術適応についての明確な基準が十分確立していない点があげられる。さらに、倫理的な観点から出生前診断や胎児治療そのものを疑問視する声もある。