外来遺伝子を患者の体内に導入し、失われた機能を後天的に付与したり、有害な遺伝子の働きを阻止したりして病気を治療する方法。1990年に初めてアメリカ国立衛生研究所で致死的先天性免疫不全症であるアデノシンデアミナーゼ欠損症に対して臨床応用され、日本でも95年に北海道大学で同疾患に対する治療が行われた。以後、肺がん、肝臓がん、食道がん(p53遺伝子)、腎臓がん(GM-CSF遺伝子)、脳腫瘍(インターフェロン遺伝子)、前立腺がん(チミジンキナーゼ遺伝子、GM-CSF遺伝子)など、がん抑制遺伝子や腫瘍免疫の賦活化を標的とした多くの臨床研究が申請・実施された。近年では心筋梗塞の虚血部位、閉塞性動脈硬化症(ASO)の患者に幹細胞増殖因子遺伝子を導入して血管を新生させる試みが行われるなど、致死的でない疾患にも応用されるようになった。しかし、安全な導入法・高い導入効率・長期持続性など未解決な問題が残されており、臨床的に有効性が確立したものは少ない。最近RNA干渉と呼ばれる、短い2本鎖RNAが標的遺伝子の働きを特異的に抑制する現象が注目されており、すでに臨床試験に入っているものもある。また、2005年にはジンク(Zn)フィンガーたんぱく質を用いて障害遺伝子を特異的に修復する手法が報告され、より副作用の少ない新しいタイプの遺伝子治療として臨床応用が注目されている。