気管内挿管は、心肺機能停止状態や重度の肺炎などで呼吸状態が悪い患者に施行される。呼吸停止状態が一定時間を超えると、諸臓器に重篤な臓器障害が起こるといわれ、特に脳は低酸素に弱く、3~5分で不可逆変化に陥ってしまう。心肺機能停止状態では、終局の目的が中枢神経障害を残すことなく患者を社会復帰させることにあるため、早急に蘇生が行われる必要がある。蘇生法の基本は「ABC」で、(A)気道確保、(B)人工呼吸、(C)心マッサージであり、気管内挿管は気道確保をより確実にするための行為である。挿入方法として、経口的挿管と経鼻的挿管の2方法がある。これまで気管内挿管は医師のみが行うことのできる行為として医師法で定められ、緊急時救命士は心肺機能停止患者に食道に管を入れて間接的に酸素を送る、食道閉鎖式やラリンジアルマスクを用いて気道を確保していた。これらの方法では気管内挿管よりも失敗しにくいが、外れやすく、ガス換気効率も悪いとの短所もある。現在日本の心肺蘇生患者の生存退院率は低く深刻な問題であり、その打開策として2004年7月から緊急時には救命士に気管内挿管が認められるようになった。しかし、気管損傷などの合併症が生じるといった問題が明らかになっており、病院で実習を受けた救命士に限って認められている。