大腸菌はヒト腸管内で常在細菌叢を構成する菌種の一つであり、尿路、呼吸器、胆道などに感染を起こす場合以外は、非病原性である。しかし、大腸菌の一部にはある種の病原因子を有してヒトに食中毒を引き起こすものも存在し、病原性大腸菌と呼ばれている。病原大腸菌は、毒素原性大腸菌、病原血清型大腸菌、組織侵入性大腸菌、腸管付着性大腸菌、腸管出血性大腸菌(O157はこれに属する)の五つに分類される。腸管出血性大腸菌の最大の特徴は志賀毒素類似のベロ毒素を産生することで、これにより出血性大腸炎や続発する溶血性尿毒症症候群、脳症が起こる。腸管出血性大腸菌の血清型は大半がO157:H7(一般にO157と通称される)で、1~5%の頻度で牛の腸管に存在し、加熱不十分な肉類や汚染された水や生野菜等から経口感染する。潜伏期は2~8日(多くは3~4日)で、下痢を中心に嘔吐、腹痛等の消化器症状が出現し、約1週間で自然治癒することが多い。しかし、症状は軽症から重篤なものまであり、時に激しい腹痛、水様性下痢に続く大量の新鮮血便を生じる(出血性大腸炎)。特に5歳以下の乳幼児や基礎疾患を有する高齢者では、溶血性尿毒症症候群(溶血性貧血、血小板減少症、急性腎不全)をきたし死に至ることもあり、早期の診断と治療が必要である。99年4月施行の感染症新法「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では、特定の職業への就業によって感染症の集団発生を起こしうるものとして三類感染症に分類されている。集団発生予防対策としては二次感染防止が重要であり、このためには流水による十分な手洗いと消毒用アルコールおよび逆性石けんによる消毒の励行が必要である。また、O157は比較的熱に弱い菌であり75℃以上1分間の加熱により菌は死滅するため、中心部まで十分に加熱調理し、調理した食品は速やかに食べるよう心がけることが大切である。