突然変異を利用した植物の品種改良(breed improvement)には、これまでガンマ線やX線といった光子(光の最小単位)による放射線が使われてきたが、イオンビーム育種は、イオンビームという、原子からいくつか電子を奪って電荷を帯びさせたイオンによる放射線を使う。これは、宇宙線と同じ高速のイオンで、サイクロトロンなどの加速器を使って、水素イオンなど色々な原子のイオンを加速させて作る粒子線でもある。イオンビームの特徴は、ガンマ線などに比べて数倍から十数倍突然変異率が高くなることや突然変異のスペクトルが広く、色々な種類の突然変異を引き起こすことができ、特に植物の育種で期待されている。
一方、抗体産生細胞が、突然変異した動物細胞を利用しているように、このイオンビーム育種を利用して、植物によるヒト抗体産生量を飛躍的に改善できる可能性がある。不活性化したウイルスにヒト抗体遺伝子を注入したうえ植物に感染させると、その植物はヒト抗体を産生する。これは植物抗体(plantibody)と呼ばれ、生産法が簡便であるにもかかわらず広く定着してはなく、その現状を打破できる可能性がある。2014年には、エボラ出血熱ウイルスに感染した患者たちにタバコの近縁種の植物で作製した抗体が実験的に投与され、一部効果をみせており、これが認可されることでも、植物抗体が着目されることになるだろう。