近年になり、医薬品や、化粧品、せっけん、シャンプーなどのパーソナルケア製品による環境汚染がにわかに注目されるようになってきた。これらの化学物質は、もともと人が服用、あるいは皮膚接触をすることを想定して作られており、人に対する安全性は一定程度確保されている。しかし、他の大量生産の工業化合物と異なり、環境に放出された以降の影響、いわゆる生態影響評価は十分に行われてきたとはいえない。PPCPsの使用量は工業化学品より少ないことや、分析が困難な場合が多いため、近年まで環境中での存在が見過ごされてきた。
しかし、液体クロマトグラフ質量分析計の発達により「ng/リットル」レベルでの分析が可能になり水環境や水道水中での存在が報告されるようになった。環境中での濃度は低いので、水生生物等への悪影響が明確に示されているわけではないが、ホルモン活性を始めとする生理活性を持つ化合物、抗生物質など殺菌作用を持つ化合物もあり、低濃度とは言え、多数混在して残留していることは野生生物影響や耐性菌の発生の観点から懸念がぬぐえない。今後、PPCPsにも事前の生態影響評価を義務づけることや、下水処理や浄水処理における除去の高度化の検討が必要となろう。また、必要以上のPPCPsや畜産用医薬品の使用は、できるだけ控える努力が必要であろう。