ヒ素は原子量74.9216の半金属性元素で、灰色、黄色、黒色の3種の同素体がある。ヒ素およびその化合物は工業薬品の原料、半導体、木材防腐剤、乾燥剤などとして使われる。
ヒ素は無機と有機ヒ素化合物およびアルシン(気体:AsH3)に分類され,それらの毒性もおのおの異なる。3価の無機ヒ素はチオール基(SH基)を持つたんぱく質と高い親和性を有するため、強い毒性を示す。5価の無機ヒ素はSH基との親和性が弱く3価より毒性が弱い。有機ヒ素化合物の毒性は一般に無機ヒ素より弱いとされる。アルシンは自然界には存在せず、鉱石中のヒ素が水素と結合して生成する。有機ヒ素化合物は農薬等に利用された。
ヒ素の環境基準0.01 mg/リットル、排水基準は0.1 mg/リットル(As)、ヒ素及びその無機化合物は化管法の報告対象物質となっている。国際がん機関ではヒ素は人に対する発がん物質と分類している。急性中毒は無機ヒ素によることが多く、自殺や無機ヒ素が混入した飲食物の摂取が原因で起こり、症状は胃腸障害や頻脈など。慢性中毒は汚染された飲料水を長く飲用した場合、金属精錬や農薬製造の時に、三酸化ヒ素を含む粉じんや蒸気に曝露して起こる。症状は皮膚障害、肝障害、呼吸器障害、末梢神経障害など。また、肺がんと皮膚がんを引き起こす。
ヒ素は海産物、特に海藻(ヒジキ)に高濃度で含有されるが、吸収率は低いとされる。ヒ素中毒の事例としては、宮崎県土呂久鉱山や島根県笹ヶ谷鉱山周辺で発生した慢性ヒ素中毒事件。森永ヒ素ミルク事件(粉ミルクの製造過程で添加した第二リン酸ナトリウムに亜ヒ酸が不純物として混入)、バングラデシュにおける地下水の自然由来の汚染などがある。
最近の事件では、2003年に発見された茨城県神栖市における地下水の飲用による有機ヒ素(ジフェニルアルシン酸)中毒がある。最初は旧日本軍の毒ガス兵器の投棄が原因と推定された。しかし現在は、比較的最近になって産業廃棄物として投棄されたコンクリート塊に含まれていたものが原因とされるものの、当該物質が戦後に大量生産された記録はなく、どのような経緯で廃棄されたものかは判明していない。