水銀には無機水銀と有機水銀が存在する。有機水銀の中でもメチル水銀は強い中枢神経障害を引き起こし、水俣病の原因となった。特に、胎児の感受性が高く、これが胎児性水俣病である。水俣病は、熊本県水俣市と新潟県鹿瀬町(現阿賀町)の工場において、アセトアルデヒドの製造工程で触媒として使用された無機水銀化合物からメチル水銀が副生し、これを排水として河川や海域に放出したことから起こった。沿岸の生態系でメチル水銀は魚介類に濃縮し、それらを多食した近隣の人々が水俣病を患った。水俣病の公式発見から50年以上経った2009年7月には「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」が施行されたが、対象者の年代や地域が限定されており、12年7月には申請が打ち切られるなど、問題はいまだ完全な解決に至っていない。ちなみに、現在の日本人は主として魚介類から水銀を摂取しており、形態はメチル水銀が大部分を占める。マグロなどの大型魚類で濃度が高く、妊娠中の女性は注意が必要だ。