視力を失った患者の視覚回復を目指すため、人工的に視覚を再現するもの。電極を用いて外部から視神経近傍に電気刺激を加えて光を認識させる方法や、CCD(電荷結合素子)カメラからつながる電極を直接脳に刺入して認識させる方法が代表的。研究アプローチの違いから、大脳視覚野を刺激するタイプと、視神経を刺激するタイプ、網膜を刺激するタイプに大別される。いずれのタイプもチャンネル数は4×4画素程度とまだ少ないが、明暗が認識でき、形を判別できるまでの性能に到達している。実際に患者に埋め込み、視力を回復したとの報告も徐々に出始めている。今後、拒絶反応の低減や長期の埋め込みに向けた取り組みが課題となっている。電力供給の問題については、光発電を利用する電極チップや光電変換色素を組み込むことで対応することが検討されている。また、五感の回復を目指す試みは視覚にとどまらず、聴覚回復を目指す人工耳(人工内耳 artificial cochlea)もあり、さまざまな形で喪失した感覚器の機能補完・回復を目指す試みが行われている。
最新の動向としては、人工網膜ではないが、ゴーグル型ディスプレーの小型版として、コンタクトレンズに電子回路を組み込むことにより、さまざまな情報の表示を可能とする超小型ディスプレーの開発が進められている。一方、視覚支援として、サングラス型のゴーグルに装着したカメラからの映像を、16チャンネル程度の多チャンネルの電極に電気信号として送り、網膜へ伝えるタイプも開発されている。それ以外にも、そうした電気情報を、額につけた多点電極アレイに伝達し、皮膚の感覚から「疑似的に」画像認識を行うタイプなどが開発されている。