モーターのような機械的運動を行う分子複合体。生物の細胞などで物質を輸送するのに使われている現象を再現し、制御しようとする試みが行われている。こうした現象として、たとえば大きさ100nm(ナノメートル nは10-9=10億分の1)のミオシン5(myosin five)というたんぱく質が細胞内の線維上を二足歩行するように動く様子や、六角形の分子が同じ分子でできた塊の周りを歯車が回るように回転する様子が観測されている。こうした現象の再現として、DNAがお互いに相補的な配置のときに結合する性質と、結合したDNAが酵素により切断されることを利用して、DNAのレールの上をDNA分子が動くような仕組みも実現されており、DNAのレールに分岐を付けて、行き先をスイッチすることも行われた。駆動のためのエネルギー源としては、生体で用いられるATP(アデノシン三リン酸)を利用するものが多いが、電気や光による駆動も試みられている。最近では、直径わずか1nmのブチルメチルスルフィド分子(BuSMe:1個の硫黄原子の片側に炭素原子4個、もう一方に炭素原子1個が結合した分子)を用いて、極限のナノスケール単分子モーター(single molecule motor)も実現された。BuSMeを平坦な銅の表面に載せて電子を励起すると、その刺激で分子は左右に回転するが、分子の構造の非対称性を反映して、結果的には表面を一方向に移動することが確認されている。