ショウジョウバエやハチの幼虫などに電子線やプラズマを照射すると、体表の細胞外物質に50~100nm(ナノメートル:10億分の1m)の薄膜が形成され、体内からの気体や液体の放出を抑制する。浜松医科大学の針山孝彦教授らのグループが発明したもので、こうして作られた「ナノ重合膜」をナノスーツと呼んでいる。一般に、電子顕微鏡での観察は、試料を高真空下に置かねばならないため、そこで生物を観察しようとすると、水分がたちまち蒸発し、体積が収縮することで変形してしまう。そのため、従来は、乾燥させた生物試料に金を蒸着させるなどの方法で観察してきたのだが、この特殊な薄膜の形成によって試料となる生物が高真空下でも生存できるようになり、生きた状態での生物試料の微細構造やその動きの直接観察が可能になる。また、同グループは、この細胞外物質と同様の作用を有する界面活性剤「Tween20」に電子線やプラズマを照射すると、同様の薄膜ができることも確認。これを利用し、ボウフラやハムシなど他の生物に適用した場合にも、電子顕微鏡による高真空下での生体構造観察が可能となる。