気泡の圧力を利用することで、針を使用することなく体内に薬液や遺伝子を導入できる注射器のこと。今までにも、バネの力で液体を高圧で発射するタイプの注射器が開発され、インシュリンやホルモンの注射に用いられているが、インシュリン用では発射に際して0.17mm程度の径があり、皮膚を貫通する際に痛みを感じるなどの問題があった。そこで昨今では、たとえば芝浦工業大学の山西陽子准教授らは、液体よりも大幅に小さな径で発射できる気泡を連続的に打ち出すことで、皮膚や細胞に微細な穴を空け、気泡とともに薬液や遺伝子を導入する手法を確立し、細胞に開ける穴のサイズを直径4μm(マイクロメートル:10-6m)程度まで微細化することに成功している。この技術のベースとなっているのは、同氏が2012年に開発発表した「マイクロバブルインジェクションメス」。これは、マイクロレベルの管の中にある液体に高電圧をかけたとき、高速の気泡が発生する現象を利用したもので、この気泡を連続的に生成し、液体中の対象物を切開するデバイスとなる。針なし注射器では、マイクロバブルインジェクションメスが液体の中でしか使用できなかった点を克服し、「メス」を覆うガラス製の筒の位置を改善したことで、細胞と「メス」との密着性を高め、空気中でも気泡を皮膚に当てて穿孔し、薬液や遺伝子を注入することができるようになった。