「オン状態」と「オフ状態」をいかに小さい電圧でスイッチできるかはトランジスタの性能を決める重要なパラメーターである。電流が急激に変化すればするほど、低消費電力で動作することができるよいトランジスタといえるが、半導体などの伝導チャンネルをゲート電圧により制御する一般的な電界効果トランジスタ(FET)では、室温では電流を1桁増やすために必要なゲート電圧を60mV以下にすることができない。そこで、新しいメカニズムにより急峻(きゅうしゅん)な電流変化、すなわち電流スロープが現れ、この限界を打破するスティープ・スロープ・トランジスタ(steep slope transistor)に期待が高まっている。このスティープ・スロープを実現する手法として、トンネル効果を利用するトンネルFET(tunnel FET)や強誘電体絶縁膜で容量が電界により変化することを利用したFETなどが提案され、試作されているが、最も劇的な効果が期待できるのが、相転移を利用したトランジスタである。遷移金属酸化物は、電子間の相互作用によって電子が動けない絶縁状態と、これが融解した金属状態を転移することが知られており、特に二酸化バナジウム(VO2)は室温近傍で、この金属・絶縁体相転移が生じ、数桁にも及ぶ抵抗変化が起こる。さらに、この相転移を電界などの外場(外から加えられる刺激)によって制御できることが確認されたことから、電子相転移を利用したスティープ・スロープ動作が現実味を帯びてきた。このような相転移現象はメモリーデバイスへの応用が期待される他、外場として超高速の光パルスを用いた光誘起相転移も着目されている。